●網膜芽細胞腫の親子間遺伝についてのQ&A

Q、網膜芽細胞腫は子どもに遺伝するの?

A、遺伝する場合とそうでない場合があります。

 網膜芽細胞腫は、遺伝子の13番染色体にある、「RB1遺伝子」という遺伝子の変異(バリアント)により引き起こされる疾患ということが分かっています。体の一部分だけの変異なのか、身体全ての遺伝子に変異があるのか、などによって、「非遺伝性」、「遺伝性」に分かれます。

 両眼(両側)に腫瘍が発生した場合は全ての症例で「遺伝性」となり、片眼(片側)のみの発症でも15%ほどが遺伝する可能性があるといわれています。患者の親や親族にRBを発症していない(散発的に発症した)場合でも、両眼性であれば「遺伝性」と称されます。

 遺伝性RB患者(およびその配偶者)が子供を設ける場合、約50%の確率で遺伝することが分かっています。

 ⇒詳しくは国立がん研究センター小児がん情報サービス「網膜芽細胞腫(遺伝)」の項目をご覧ください。

 

Q、遺伝子検査で何が分かるの?

A、変異の状態や場所などが特定できる場合があります。

 一口に、「RB1遺伝子の変異」といっても、RB1遺伝子の変異の仕方は人によって様々です。

 片眼性で、自分が遺伝性かを調べたい場合、あるいは両眼発症で遺伝性であることが既に分かっている場合にも、遺伝子変異の場所や変異の仕方を特定したい場合には、遺伝子検査(採血)を行い、どんな形で変異しているかを調べる必要があります。RB患者の遺伝子変異の状態が特定できれば、その兄弟姉妹や親、子どもなど、親族についても、遺伝子検査をすることで、同じ変異があるかどうかを調べられます。

 ただし、現在の医療では、特定できる可能性は約8割と言われており、変異があっても具体的な特定に至らない場合もあります。

 遺伝子検査を受けるためには、必ず遺伝カウンセリングを受ける必要があります。遺伝子検査を受けることにはメリットもデメリットもあるため、治療した病院の主治医や遺伝診療科などへ相談の上、受診するか判断してください。

 ⇒参考:国立がんセンター遺伝相談外来HP
 

Q、遺伝子検査の料金は?

A、カウンセリング料+検査料(保険適用/保険適用外)です。

 網膜芽細胞腫の遺伝子検査は現在、患者本人は保険適用による検査が可能です。発症していない家族については、保険適用外となります。遺伝カウンセリングの費用は機関によって異なります。最寄りの受診機関に直接尋ねるか、主治医等にご相談ください。

 【RBの遺伝子検査にかかる費用】

 ①遺伝カウンセリング初診料

 ②遺伝子検査費用(患者本人:保険適用、未発症の親族等:保険適用外)

 ③遺伝カウンセリング再診料(結果通知時)

 

Q、子どもに遺伝するかもしれない場合、どうしたらいいの?

A、遺伝性RB患者(とその配偶者)が子どもを設ける場合は、さまざまな選択肢が考えられます。

 遺伝性RB患者が子供を考える場合、現在の日本国内では、下記のような選択肢、対応が考えられます。

 【①子どもは設けない】

 遺伝する確率は1/2ですが、もし遺伝した場合、乳幼児期に発症する可能性が高い疾患です。病気のリスクを考えて、子どもを設けないという選択が考えられます。

 【②生まれてから調べる】

 普通の妊娠・出産を選ぶ場合には、親のRB患者が治療をした病院や出産する産院などと相談の上、生後すぐに眼底検査ができる機関や遺伝子検査を行う場合の方法、発症した場合の治療について、相談できる機関と連携しておくと、出産後に適切な対応が可能です。

 

 

 =早期眼底検査=

 生まれてすぐの新生児でも、眼底検査は可能です。出産後、生後1週間を待たずに眼底検査によって腫瘍の有無を調べることができます。遺伝している場合は胎内で発症しているケースもあり、その場合、早期発見が早期治療に繋がるため、生後なるべく早い段階での検査が強く推奨されています。(未熟児に網膜に障害がでる場合があることから、大きな病院であれば、新生児の眼底検査が可能が場合があります。出産前に、近隣の病院で検査ができるか確認しておくとスムーズです)

 腫瘍が見つからなかった場合でも、遺伝子検査などで遺伝していないことが確定していない限り、定期的に異常がないか調べる必要があります。

 =出生児の遺伝子検査=

 親であるRB患者が遺伝子検査をしている場合には、生まれた子供の臍帯血などで遺伝子検査を行い、遺伝しているかどうかを確定させることが可能です。遺伝子検査ができる機関、病院は限られるため、出産前に親の遺伝子検査と共に、専門機関や産院と調整する必要があります。
 

 【③妊娠中に調べる】

 =胎児エコーと出生前診断=

 妊娠中に遺伝の有無を調べる場合は、「胎児エコー」や「出生前診断」という検査方法があります。

 「胎児エコー」は通常の妊娠中の健診でも行われるエコー検査です。胎内で発症した場合、ある程度胎児が成長していれば、腫瘍の大きさによってはエコーに映る可能性があります。

 ただ、全ての産院で小さな胎児の小さな腫瘍を見付けることは困難であり、また仮に発症していても必ずエコーで発見できるわけではありません。

 「出生前診断」は、妊娠が成立した後に絨毛検査や羊水検査などで胎児の遺伝子を採取し、遺伝子検査を行うことで、遺伝の有無を調べる方法です。事前に親のRB患者の遺伝子変異が特定されていることが条件となるため、出生前診断を考える場合には、出来れば妊娠前に親である患者の遺伝子検査を行っておく必要があります。また、RBの出生前診断が行える病院は限られており(一般的な羊水検査とは検査の仕方が異なります)、やはり妊娠前に対応可能な病院と相談しておく必要があります。

 出生前診断で遺伝が分かった場合には、事前に治療可能な病院と相談し、出産後の早期治療に備えることができます。

 

 【妊娠前に調べる】

 =着床前診断(PGT-M)=

 妊娠前に遺伝を調べる方法として、「着床前診断」があります着床前診断は体外受精の一種です。卵子と精子を採取し、人工的に体外で受精させ、数日間育てた受精卵から一部の細胞を取り出し、遺伝子や染色体を調べる方法です。「着床前診断」と「出生前診断」は混同しがちですが、それぞれ「妊娠前」「妊娠後」に検査する違いがあります。

 出生前診断:妊娠、羊水検査などで採取した胎児の遺伝子を調べる

 着床前診断:妊娠、受精卵(胚盤胞)から採取した細胞の遺伝子を調べる

 

 着床前診断により遺伝子に変異のない受精卵(胚盤胞)が見つかれば、その胚を子宮に移植することで、遺伝を防ぐことができます。

 現在、海外の一部の国では、RBの着床前診断が認められています。しかし、日本国内では、着床前診断の対象は、日本産科婦人科学会の指針により、「重篤な遺伝性疾患児を出産する可能性のある遺伝子変異ならびに染⾊体異常を保因する場合、および(略)習慣流産に限られる。遺伝性疾患の場合の適応の可否は、日本産科婦⼈科学会において審査される」とされてきました。

 「重い遺伝病」とはこれまで「生命予後が不良で成⼈に達する以前に日常生活を強く損なう症状が発生したり生存が危ぶまれる疾患」とされており、RBなど生存率の高い疾患で、これまでに承認された例はありませんでした。

 2018年に当会会員が申請したPGT-Mが非承認となり、当会がその理由の開示を求めたことをきっかけとし、この指針の見直しについての議論が始まりました。22年4月より、改定された指針で、新たなPGT-Mの審査が始まっています。23年11月現在、RBの申請で、承認を公表された例はありません。詳細は下記をご覧ください。

 海外等の機関でPGT-Mを受けることは不可能ではありませんが、その場合は受診機関の選択、費用負担等は全て自己責任となります。

 さらに、仮に着床前診断を行う場合には、患者やその配偶者が自然妊娠ができる場合でも、通常不妊治療で行われるような体外受精(採卵、顕微授精、移植)をする必要があります。

 不妊治療は現在、国内では保険適用とされていますが、PGT-Mを行う場合は、自由診療となるために、保険診療は適用されず、全て自費となるため、通常の妊娠に比べ高額な費用がかかります。

 また、着床前診断を行えば確実に妊娠(着床)できるということでもありません。

 

【どの選択肢を選べばいいのかわからない】

 RBは、小児がんの中でも早期治療ができれば生存率が非常に高い疾患です。一方で、根治法がなく、必ず眼球や視力が温存できるとは言い切れないこと、乳幼児期の治療は数ヶ月~数年かかる可能性があり、親子の精神的、肉体的負担も大きいこと、遺伝性の場合は将来の二次がんの可能性や、結婚・出産の問題など、ぶつかる壁も多いことも事実です。

 どういう選択が正しい、という答えはありません。当会は患者本人とその配偶者、ご家族の気持ちに寄り添い、それぞれの夫婦が最適と思える決断ができるよう、支援していきます。

 当会は患者会のため、専門的な助言は行えませんが、会員の経験した事例や、支援いただいている専門家の方々の紹介は可能です。悩みがあれば、是非、お問い合わせフォームからご連絡ください!

 



●RBの着床前診断(PGT-M)をめぐるこれまでの国内の動き

 2018年2~3月 当会でRB患者と家族を対象とした着床前診断に関するアンケートを実施

 2018年4月 遺伝性RB患者(当会会員)が、国内で初めて着床前診断の申請を日本産科婦人科学会に行う。

         ※当会で集めた約50件のアンケートを同学会に補足資料として提出

2018年6月 日産婦が「着床前診断に関する審査小委員会」にて同申請を審議

2018年7月 申請機関を通じて「非承認」とする結果を通知。

        ※非承認の結果について、審議過程などの詳細は明かされず。

 2018年8月 日産婦に対し、当会より審議過程などの公開を求めた「質問書」を提出。

 2018年8月~19年2月 日産婦「倫理委員会」で同申請及び当会質問書について議論。

   ⇒日本産婦人科学会倫理委員会議事録をご覧ください(平成30年度第4回~5回)

 2019年3月 日産婦より回答書を受領。

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【日産婦からの回答(一部抜粋)】

▶重篤性について:本症例は感覚器の障害という従来の生命予後が関わる疾患と異なるカテゴリーの疾患で現時点では適応がない。(抜粋)

▶基準見直し:質問書をうけ日産婦倫理委では、着床前診断における重篤性の定義や審査のあり方について、議論を開始した。今後、幅広い階層の方々から意見を伺いながら、適応の拡大についての見直しを進めることも検討する。(抜粋)

  ⇒質問書および回答書については、会員限定ページで公開しています。 

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 2019年4月 回答書を受け、同申請者(当会会員)が着床前診断の再申請を行う。

 2019年6~7月 日産婦「小委員会」、「倫理委員会」で審議保留。

 2019年8月 日産婦の理事会にて、同申請等を議論するため、「倫理審議会」の設置決定。

 2020年1月、11月、2021年3月 日産婦「倫理審議会」開催 

         ※当会は全回傍聴参加

 2022年4月 日本産科婦人科学会によるPGT-Mの審査に新基準が適用開始

         不妊治療の保険収載により、PGT-M実施の場合は自費診療に

   

   ※日本産科婦人科学会のPGT-Mの説明、見解については、以下日産婦HPをご覧ください。

   ・重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-M)

   ・「重篤な遺伝性疾患を対象とした着床前遺伝学的検査」に関する見解/細則

 

 これまで、遺伝性疾患の着床前診断に関する議論に患者本人の声が反映される機会はほとんどなく、2020年まで長期間に渡り、審査基準についてを見直す動きさえありませんでした。

 患者やその家族には、医療関係者や有識者の方々のような専門的な知識は不足している場合がほとんどですが、「日常生活への支障」や、「病気そのものや闘病に付随する苦労」、逆に「病気になったからこそ得られたこと、学んだこと」、その上で自分の人生をどう決断していきたいかという切なる思いは、経験した当事者にしか語れません。

 この度、当会の質問書の提出により、当事者を含め、広く一般の意見を聞く場が設けられたことは大きな成果だと思っています。今後も、適切な時期に、適切な議論が継続がされることを望みます。

 

 

●当会の親子間遺伝、およびPGT-Mについての方針

 当会は、遺伝性RB患者とその家族が子どもを考えるに当たって、遺伝に関する正確な知識を普及させることによって、その決断を手助けする活動を行っています。インターネットなどで得られる情報は限られており、また、妊娠・出産ができる期間もまた、限られているからです。

 小児がんの中では、ただちに生命を脅かす可能性は少ない疾患とはいえ、根治法はなく、視力や眼球を絶対に温存できるとはいえない疾患を経験した患者やその家族は、成人して自立し、パートナーとの新生活を考える中で、改めて病気と向き合い、病気が遺伝することに対し、「受け入れる」、「子供をあきらめる」、「遺伝させたくないと思う」など、さまざまな選択肢を迫られることになります。

 当会は着床前診断を推奨する会ではありません。母体への負担や金額的負担も大きく、必ず子どもを授かれるとは限らない選択肢であることは否定しません。一方で、患者とその家族が望むならば、選択肢の1つとして、着床前診断を選べる社会にすべきとも考えています。

 

 遺伝の問題は、まだまだ国内ではタブー視されがちです。当会は、患者の「知る権利」「知らない権利」を尊重し、医療関係者のご支援の下、メリット・デメリットを含め、望む方には最新の情報を提供できるよう努力していきます。また、選ぶ権利は患者とその家族にあると考えており、患者とその家族が、正しい知識やカウンセリングを元に決めた決断であれば、いかなる決断であっても支援いたします。

 

 RBピアサポートの会は、成人RB患者、及び遺伝性のRB患者とその配偶者について、

 ①遺伝カウンセリングや遺伝子検査を希望する場合、正確な情報提供と必要な機関への相談を支援します。

 ②患者が男性の場合は、結婚・出産にあたり配偶者の女性も支援します。

 ③子どもを「設ける」「設けない」、遺伝性RB患者のどちらの意思も尊重し支援します。

 ④「妊娠中・出産後に遺伝を知りたい」「遺伝させずに産みたい」等のいかなる選択も尊重し支援します。

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遺伝子って、何色かな~?